個人事業主になったはいいが……
前編で書いた通り、所長の一言をきっかけに、自分は個人事業主として直接取引を始めることになった。
現場の仕事には自信があった。設備のことも、職人さんとのやり取りも、段取りも、今までの経験で何とかなると思っていた。
でも、いざ個人事業主になってみると、まったく別の壁が目の前に現れた。
聞いたことはある。でも、何をどうすればいいのかは全然わからない。
昔の自分にとって、税金は「会社が勝手に引いてくれるもの」だった。給料明細を見て、手取りだけ確認して終わり。それ以上深く考えたことなんてなかった。
けれど個人事業主になると、そうはいかない。自分で売上を管理し、自分で経費を整理し、自分で申告しなければならない。
正直、最初は現場よりこっちの方が怖かった。
青色申告会に入ることにした
何から始めればいいのかわからなかった自分は、青色申告会に入ることにした。
最初は「こういうところに行って、自分みたいな現場の人間が理解できるのか」と不安もあった。
でも実際に相談してみると、拍子抜けするくらい丁寧に教えてくれた。
帳簿のつけ方、領収書の扱い、経費になるもの、ならないもの。今まで知らなかったことを、一つずつ噛み砕いて説明してくれた。
そこで初めて、個人事業主は仕事だけできればいいわけではないと実感した。
数字を見る力も、仕事を続けるための大事な力なのだと気づいた。
税金って戻ってくるの?
青色申告会で教わりながら申告を進めていく中で、一番驚いたのが還付金だった。
それまでの自分にとって、税金は「払うもの」「引かれるもの」だった。
だから、申告の結果として税金が戻ってくることがあると知った時、本当に驚いた。
もちろん、何でもかんでも戻るわけではない。ちゃんとルールに沿って、必要な書類を整理し、正しく申告した結果として戻ってくる。
でもその時、自分の中で大きく価値観が変わった。
知らないままだったら、同じように働いていても手元に残るお金が変わっていたかもしれない。
知っているか、知らないか。その差は思っていた以上に大きかった。
青色申告会で学んだ節税の世界
青色申告会で学ぶうちに、節税という言葉の意味も少しずつわかってきた。
青色申告、経費、控除、ふるさと納税、国民年金基金、小規模企業共済。
名前だけ見れば難しそうに感じる。でも一つずつ知っていくと、どれも「ちゃんと働いて得たお金を、ルールの中で守る仕組み」だった。
個人事業主は、会社員より自由がある。その代わり、自分で考えないと損をする場面も多い。
たとえば仕事で使う道具、車、通信費、資料代。これらも内容によっては経費として整理できる。
昔の自分なら、何も考えずにただ払って終わりだったと思う。
でも今は違う。これは事業に必要な支出なのか。記録は残っているか。説明できるか。そう考えるようになった。
お金の見方が、少しずつ経営者の見方に変わっていった。
節税と脱税は紙一重
ただし、ここで大事なのは、何でも経費にすればいいわけではないということだ。
節税と脱税はまったく違う。
節税は、法律のルールの中で認められている制度を正しく使うこと。脱税は、売上を隠したり、嘘の経費を入れたりして税金をごまかすこと。
この違いを知らずに「みんなやっているから」と曖昧なことをすると、後から追徴課税で痛い目を見る可能性がある。
だからこそ、最初に青色申告会で基本を学べたのは本当に大きかった。
この線引きを自分の中に持てたことで、お金の話を怖がるだけではなく、正しく向き合えるようになった。
知識が武器になる
個人事業主になって一番変わったのは、収入だけではない。
自分のお金に対する見方が変わった。
税金はただ取られるものではない。経費はただの買い物ではない。制度は難しいものではなく、知っている人だけが使える道具でもある。
もちろん、今でもすべてを完璧に理解しているわけではない。
それでも、知らないまま放置するのが一番もったいないことはわかった。
現場しか知らなかった自分でも、一つずつ学べば変われる。
そして学んだ分だけ、家族を守る力も、自分の未来を選ぶ力も増えていく。
個人事業主になる前、作業員から施工管理へ踏み出した「あの日の決断」を前編で書いています。
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